東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2750号 判決 1973年1月30日
(昭和四六年(ネ)二、七五〇号控訴人、同四七年(ネ)一〇七号被附帯控訴人)
第一審被告
池田農業協同組合
右訴訟代理人
古屋福丘
(昭和四六年(ネ)二、七五〇号被控訴人、同四七年(ネ)一〇七号被帯控訴人)
第一審原告
北炭農林株式会社
右訴訟代理人
風間克貫
外二名
主文
一 第一審被告の控訴および当審における原状回復の請求は、いずれもこれを棄却する。
二 第一審原告の附帯控訴のうち第一審原告の首位的請求(約束手形金の請求)にかかる部分はこれを棄却する。
三 原判決中第一審原告の第二次的請求(不法行為による損害賠償の請求)に関する部分のうち第一審原告の敗訴部分を次のとおり変更する。
(1) 第一審被告は第一審原告に対し、さらに金百拾八万千六百九拾九円およびこれに対する昭和四拾四年弐月壱日以降右完済までの年五分の割合による金員を支払え。
(2) 第一審原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟の総費用は第一審被告の負担とする。
五 この判決は第三項(1)の部分に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一、第一審原告の首位的請求についての判断
当裁判所は、当審における新たな口頭弁論および証拠調の結果を斟酌しても、第一審原告の首位的請求(約束手形金の請求)は失当と判断するものであつて、その理由は原判決がその理由中の「第一首位的請求原因についての判断」において説明するところと同一である(但し、右理由説明第一、一、(四)の第一、二行目に「成立に争いない甲第一ないし第三号証の各一」とあるのを「原審証人末木富造の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一ないし第三号証の各一」、と第二行目に「前記一」とあるのを「前記(一)」と訂正する。
即ち、訴外末木富造は、代金債務について第一審被告が保証をするとの前提の下に第一審被告から木材を買受けたものであるところ、第一審被告の職員で事実上参事の地位にあつた訴外小林勝美は、右末木が代金債務支払のために長男守名義を用いて提出した本件係争手形を含む五通の約束手形に右代金債務の保証の趣旨で第一審被告組合長理事五味知重名義をもつて裏書をし、これらの約束手形を右末木を通じて第一審原告に交付したものである。右裏書は第一審被告の表見参事である小林勝美がしたものであるから裏書としてはこれを無効であるということはできないが、農業協同組合である第一審被告が他人の債務について保証をすることが、その目的外の行為として無効であることは、農業協同組合法において債務の保証をなしうるのは、同法第一〇条第一項第二号の事業を行う農業協同組合連合会がその会員のために国、地方公共団体又は定款で定める金融機関に対して会員の負担する債務を保証する場合に限定されていることの反面解釈上明らかであるから、(同法第一〇条第一〇項)、第一審被告は右裏書の原因関係である保証行為の無効を理由として保証行為の相手方である本件係争手形の所持人たる第一審原告に対し手形金の支払を拒むことができるものというべきである。されば、第一審被告が本件係争手形の裏書をしたことを理由とする第一審原告の手形金請求は失当として排斥を免れない。また、上記小林勝美が第一審被告組合参事の名義をもつて本件係争手形の支払をなすべきことを約し、次の趣旨を記載した確約書(甲第六号証)を第一審原告に差入れたとしても、この一事によつて上記保証行為が有効となるべき理はなく、更に、第一審被告が本件係争手形による債務の承認又は引受をしたとの第一審原告の主張については、これを肯認するに足りる証拠はなく、第一審原告の首位的請求は採用の余地がない。
二、第一審原告の第二次的請求についての判断《以下省略》
(平賀健太 石田実 安達昌彦)